girikenのブログ

40歳の未婚おじさんが描く恋愛小説

40歳独身貴族のアバンチュール13

さて、これはどういった事なのだろうか。

状況が掴めずにいた。


「あのぉ、会計の金額表記間違ってるみたいなんですが」

健二はバーテンダーに聞いてみたが、

「いえ、そちらでお間違い御座いません」

との返答。


え?

ええ?


全く状況が理解出来ない。

「いやいや、だって僕がここのお店でいただいたのって2人で飲み物6杯とお通しだけですよね?」

「そうですね。しかし、うちのお店はその金額帯でやらせてもらっているので」


困惑している中、なつきに連絡を取ろうとした。しかし、先程のお店で連絡先は後で教えるとだけ言われてその時に教えてもらえなかった事を思い出した。

「あの、先程一緒に来たなつきさんっているじゃないですか?あの子の連絡先の番号とかって分かりますか?」

「いや、私は存じ上げないですね」

先程までのバーテンダーの明るい雰囲気とは一転して、淡々とした口調で彼は語った。


「ごめんなさい、ちょっともう一度トイレに行ってきていいですか?」

「どうぞ」

と言うものの、また今回もバーテンダーがトイレの入り口まで付いてくる。


「どういう事だろう?金額もよくわからないし、なつきさんもどっか行っちゃうし」

怪訝な顔をしながら小便器で用を足していると、トイレの奥の個室から男性が現れた。

トイレですれ違う事なんかはいくらでもあるが、よっぽどその時の健二の顔が追い込まれているように見えたのだろう。

青ざめている健二の顔を見て、彼は話しかけてきた。


「こんちには。具合悪そうですけど大丈夫ですか?」

「あ、すいません。体調は全然大丈夫なんですけど」

「もしかして、あそこのBARに行かれたんですか?」

「え?あ、はい。そうですけど」

「お会計ってされました?」

「ちょうどさっきお会計をお願いしたら、ちょっとよく分からない金額が提示されて。間違いかな?と思って聞いたら、淡々と間違いではないと言われてパニックになってました」

健二がそう答えると、その男性はあちゃーといった表情を見せた。


「お兄さん。いきなりあんなよく分からないお店に行っちゃあダメだよ。あのお店、おの界隈だったら有名なぼったくりだよ」


健二の頭は真っ白になった。


「あのお店から出てきた人と何人かここのトイレですれ違った事あるけど、みんなお兄さんと同じような困惑した顔をしていたよ。多分トイレもお店の人が入り口まで来てるんでしょ?それ、逃がさない為だからね」

彼は言った。黙って健二は聞いていたが、彼は続けた。


「あと、ここのお店って7階にあるでしょ?大抵のぼったくり店っていざという時に人を逃がさないように上層階に店を構えてるんだよね」


「え。」

健二は色々と語りかけてくるその男性に何も返答する事が出来なかった。


「まあ、頑張ってくれよ」

そう言うとその男性はトイレを後にした。

その男性がトイレから出る際にドアを開いたのだが、そこには例のバーテンダーが立っていた。

この人は自分のことが心配で来てくれたわけではなく、ただ自分が逃げないかの監視の為にいるのか。

健二は察してしまった。

40歳独身貴族のアバンチュール12

飲み始めて小一時間が経過しただろうか。
なつきが
「ちょっとお花摘みに行ってくる」
と言ってトイレに立った。
トイレは各テナントの共有の物が通路にあり、そこへ向かうなつき。
「いってらっしゃい」
と言ってトイレへ見送る健二だったが、そろそろお持ち帰りへ持ってく算段を
立てていた。


「戻ってきたらさりげなくホテル街の方へ誘導して。。」


などと妄想を膨らませていた。
しかし。
5分経ってもなつきは戻ってこない。


「化粧直しでもしているのかな」
ワクワクしながら待つ健二。
しかし、10分経ってもなつきは戻ってこない。


「結構飲んでそうだったし、大丈夫か?」
いよいよ心配になってきた。
そこで、健二は荷物をカウンターに置いたままにした状態でトイレまで行く事にした。
「私も一緒に行きますね。」
バーテンダーの男も付いてきた。
「行きつけのお店と言っていたし、このバーテンダーの人も心配しているんだろうな」
健二は思った。


トイレの前まで来たのはいいが、そこは女子トイレである。
男が入るわけにいかない。
その時、ちょうどナイスタイミングで他のテナントの女の子がトイレを使う為にあらわれた。


「あの、すいません」
健二が話しかける。
「ツレがトイレに行って出てこないんです。もしかしたら酔いつぶれちゃっているかもしれないので、様子を見て来てもらえませんか?」
そうお願いすると、「いいですよ」と言って中の様子を見に行く女性。


程無くして女性が戻ってきたが、眉の部分にしわを集めた表情をしていた。
「どうでしたか?酔いつぶれて動けそうもない状態でしたか?」
健二がそうきやいなや、その女性から思いがけない返答が。
「いや、トイレには誰もいませんでしたよ?」


「え???」


健二には意味が分からなかった。
他にも人がいない事を確認して健二は女子トイレの中へ入っていった。
確かに誰もいなかった。
健二は一瞬パニックになってしまった。


「どういうことだ?」


もしかしたら、非常階段に出て休憩でもしているのか?
しかし、非常階段を覗いて見てもなつきは見当たらない。
となると酔ってトイレではなくエレベーターの乗ってしまったのか?
健二は色々な事を想定した。


となると、お店に長くいても仕方が無い。
すぐに出て、一刻も早くなつきを探し出さなければいけない。
そして、そのままお持ち帰りをしなくては。


「マスター、お会計で!」
焦りが口調にも表れてしまった。
そうすると、マスターが伝票を出してきた。


「ん?なんだこれは」
健二は伝票を受け取った。
そこに書かれたいたのは


「お会計:420,000円」


42万円の請求であった。

40歳独身貴族のアバンチュール11

飲み始めてかれこれ2時間が経過した。
なつきの頬は桃のように紅潮されている。


「この後どうしようか?なつきさん、まだ時間大丈夫?」
健二はなつきに聞いてみた。


「全然大丈夫!健二君と飲んでる時間楽しいもん!」
酔っているからだろうか。
健二にとって嬉しい返答が先程より楽し気に返ってきた。
続けて、なつきが
「この後、お店変えない?私、近くにいいBAR知ってるんだよね!
 結構行きつけのお店でそこまで広いお店じゃないんだけどお客さんも少なくてゆっくりできるお店だから、そこで飲み直そうよ!ここから歩いてそんなにかからないし!」
と言ってきた。


「へえ、行きつけのお店なんだ。そりゃあいいね。いいよ、行こうか!」
そう言ってお店を出た二人。


すると、店を出るやいなやなつきが腕を組んできた。
しかも、意識しているのかどうか分からないが、確実に腕に胸が当たっている。
「へへへ。私、ちょっと酔っちゃったみたい。ちょっとの間、こうしてていい?」
まさかいきなりこんなに美味しいシチュエーションになると思っていなかった健二だが、
「酔ったの?しょうがないな。次のお店までだからな」
と気取って言うのが精いっぱいだった。
頭の中ではこの後どうやってなつきをホテルに連れ込むか。この一点しか考えていなかった。


なつきが歩みを進めると、そこは色々な種類の店がひしめくネオン街であった。
道行くお店の前にキャッチのお兄さんが立っており、迷惑防止条例も関係なく
「お兄さん、どう?」
と、通り過ぎる人々に声を掛けている。
その人たちを通り過ぎ5分程歩いたところにあったとある雑居ビルの前まで二人は来た。
「ここの7階だよ!」
そう言ってなつきが連れてきたのは雀荘とおっぱぶが併設されている7階建てのビルであった。


「変わったところにあるお店だね」
「オーナーが元々この近くでいくつか店舗を経営していて、そのうちの一つがここなの」
なつきはテンション高く答えた。


7階まで上がると、こじんまりとした隠れ家的なお店がそこにあった。
照明が薄暗く間接照明で照らし出された店内。
バーカウンターが置かれていて、7人くらいしか座れない小規模なお店である。
カウンター越しにバーテンダーの男性が一人。店員の女性が一人。


「こんちゃ!!」
酔ったなつきが二人に笑顔で話しかける。
「やあ、いらっしゃい」
バーテンダーの男性が渋い声で語りかける。


「他にお客さんもいないし、静かそうでいいお店だな」
健二は第一印象でそう思った。


とりあえず、二人は再度飲み直す為にドリンクを注文する事に。
健二はウィスキーのロック、なつきは甘めのカクテルを頼んだ。
続けてお通しのナッツとビーフジャーキーが運ばれてくる。
他のお店と特に違いがあるわけではなく、お通しは普通であった。


そこから二人はゆっくりとお酒を飲み進める。
店内に響き渡る二人の声。
いい雰囲気だった。
健二はいつなつきを連れ出そうか頭をフル回転しながら飲み進めていった。


しかしこの後、なにが起こるかこの時の健二は知る由もなかった。