さて、これはどういった事なのだろうか。
状況が掴めずにいた。
「あのぉ、会計の金額表記間違ってるみたいなんですが」
健二はバーテンダーに聞いてみたが、
「いえ、そちらでお間違い御座いません」
との返答。
え?
ええ?
全く状況が理解出来ない。
「いやいや、だって僕がここのお店でいただいたのって2人で飲み物6杯とお通しだけですよね?」
「そうですね。しかし、うちのお店はその金額帯でやらせてもらっているので」
困惑している中、なつきに連絡を取ろうとした。しかし、先程のお店で連絡先は後で教えるとだけ言われてその時に教えてもらえなかった事を思い出した。
「あの、先程一緒に来たなつきさんっているじゃないですか?あの子の連絡先の番号とかって分かりますか?」
「いや、私は存じ上げないですね」
先程までのバーテンダーの明るい雰囲気とは一転して、淡々とした口調で彼は語った。
「ごめんなさい、ちょっともう一度トイレに行ってきていいですか?」
「どうぞ」
と言うものの、また今回もバーテンダーがトイレの入り口まで付いてくる。
「どういう事だろう?金額もよくわからないし、なつきさんもどっか行っちゃうし」
怪訝な顔をしながら小便器で用を足していると、トイレの奥の個室から男性が現れた。
トイレですれ違う事なんかはいくらでもあるが、よっぽどその時の健二の顔が追い込まれているように見えたのだろう。
青ざめている健二の顔を見て、彼は話しかけてきた。
「こんちには。具合悪そうですけど大丈夫ですか?」
「あ、すいません。体調は全然大丈夫なんですけど」
「もしかして、あそこのBARに行かれたんですか?」
「え?あ、はい。そうですけど」
「お会計ってされました?」
「ちょうどさっきお会計をお願いしたら、ちょっとよく分からない金額が提示されて。間違いかな?と思って聞いたら、淡々と間違いではないと言われてパニックになってました」
健二がそう答えると、その男性はあちゃーといった表情を見せた。
「お兄さん。いきなりあんなよく分からないお店に行っちゃあダメだよ。あのお店、おの界隈だったら有名なぼったくりだよ」
健二の頭は真っ白になった。
「あのお店から出てきた人と何人かここのトイレですれ違った事あるけど、みんなお兄さんと同じような困惑した顔をしていたよ。多分トイレもお店の人が入り口まで来てるんでしょ?それ、逃がさない為だからね」
彼は言った。黙って健二は聞いていたが、彼は続けた。
「あと、ここのお店って7階にあるでしょ?大抵のぼったくり店っていざという時に人を逃がさないように上層階に店を構えてるんだよね」
「え。」
健二は色々と語りかけてくるその男性に何も返答する事が出来なかった。
「まあ、頑張ってくれよ」
そう言うとその男性はトイレを後にした。
その男性がトイレから出る際にドアを開いたのだが、そこには例のバーテンダーが立っていた。
この人は自分のことが心配で来てくれたわけではなく、ただ自分が逃げないかの監視の為にいるのか。
健二は察してしまった。