girikenのブログ

40歳の未婚おじさんが描く恋愛小説

【東京上京物語11】20230317

ドアの覗き穴越しに見える彼女は、どことなく落ち着かない表情をしていた。

しかしながら、とりあえず外にいるのは勧誘系の人ではない事ははっきりした。

どうしたのか聞いてみよう。

早速ドアを開けてみると、


「あ、良かった!いた」


と、声をかけてきた。


「おはよう。どうしたの?」


全く状況が掴めないので、二日酔い丸出しの状態ではあるが聞いてみた。


「えっとね。。。」


何かを言いたそうにしながら、ふと箱を渡してきた。


(なんだろう)


何か全く分からずに考えていると、


「この前、お引っ越しのご挨拶品いただいたじゃないですか?私だけもらいっぱなしはダメだなと思って。」


聞いてみると、わざわざ引っ越しの挨拶品を持ってきてくれてたらしい。

更に、平日何度も来てくれていたのだが、自分が全くいなかったので土曜の学校が休みとまで考えて届けに来てくれたのだ。


(そういえば、ここ最近は連日新歓コンパで家にほとんどいなかったからな)


そつ思いながらも、彼女のわざわざ気を使って動いてくれた気配りにただただ感動してしまった。

そして引っ越しの挨拶品を渡した時の健気な姿を見て、温かい気持ちになったのだった。

【東京上京物語⑩】20230316

そうこうしながら過ごしていると、やがて大学が始まった。

いわゆるキャンパスライフというやつだ。

まずはサークルを決めておきたい。

4月は、各サークルが新しい入部者を得る為に、どこも活気よく声がけとチラシ配りを行っている。

4月ならではの大学の光景だ。

いくつかのチラシを受け取るものの、やはり一度そのサークルに行ってみないことには雰囲気が味わえない。

とりあえず、興味があっていけそうな新歓コンパは片っ端から行ってみよう。

力也はそう思ったのであった。


そうなると、4月はひたすらに飲み会のラッシュである。

授業が終わり、その後から始まる新歓コンパ。

終電で終わる日もあれば、朝まで続く日もあった。

金曜日に参加したテニスサークルの飲み会は朝方まで続いた。

テニスサークルは飲みサークルである事が多いと言われたりするが、ここの大学はずばりそうであった。

1週間の授業の緊張感も相まって、土曜日の朝はフラフラになりながら帰宅した。

そして家に着くと同時に全身をベッドに投げ込み、泥のように眠るのであった。


どれくらいの時間が経過してしただろうか。

突然、コンコンと音が玄関のドアか、聞こえてきた。


(NHKか宗教の勧誘かな?)


そう思い、一度ノックをスルーしてみた。

すると程なくして、またコンコンとドアをノックすら音が聞こえてくる。


(しつこいな)


二日酔いで体調が優れない中、玄関の覗き穴から外を見てみた。

するとそこに立っていたのは、NHKでも宗教の勧誘でもなく、お隣の女の子だったのだ。

【東京上京物語⑨】20230315

上京して数日後。

力也は北海道の友達で今回上京してきた上京組4人で会う事になった。

待ち合わせ場所は渋谷だ。

地名は聞いた事はあるが、当然行ったことは当然無い。

まあしかし、ただ単に多少大きめの若者が集まる場所なのだろう。

その程度にしか思っていなかった。


田舎出身者にはややこしく感じる電車を乗り継ぎ、渋谷の地へと降り立った。


(なんだ、これ)


カルチャーショックを受けた。

よく駅前のスクランブル交差点を見て、祭りが開催されてるのかと思ったと言う人がいることは知っていた。


「そんな、アホな」


力也もそう思っていた。

あの光景を見るまでは。

スクランブル交差点の歩行者用信号が青になった瞬間、無数の人達が一斉に渡りはじめる。

交差点の中央付近はまるでぎゅうぎゅうのおしくらまんじゅうみたいな状態に思えた。


力也にとっては全てがカルチャーショックだった。


今まで生きてきた自分の常識が通用しない。

若干戸惑いながらも、流れに身を任せ約束していたお店に到着した。

するとそこには、昔から知っている3人の姿があった。

こんな今までは考えられなかった異空間に身を置いているが、やはり昔から知っている仲間に会えると心が安堵している事にすぐ気付くことが出来た。


当然4人とも一人暮らしで、この上京してから数日の話で会話に花が咲いた。

そんな折、隣人の話になった。


「いやあ、隣の人が東南アジア系の人で、独特の匂いがするんだよね」

「俺の横なんておじいちゃんで、ちょっと電話で話すだけで壁を叩かれる」


そんなネガティブな話ばかりだったので、力也は自分の隣人の話は伏せた。

もし話したら、見せろと言って押しかけてくることも懸念しての行動だった。


(あぁ、俺ってラッキーだったんだな)


力也は1人でにやけそうになる顔を抑えるのに一生懸命だった。