健二は今まで出会った事のない種類の人だったので些か困惑した。
「なんだろう、この統一感の無い格好をした人は」
それが彼の第一印象であった。
しかし周りの子たちは
「中田さん、おはよう御座います!」
「中田さん!」「中田さん!」
と、次々と声をかけられてゆく。
どうやら人望だけは厚いらしい。
健二も声をかけられてので、
「は、初めまして!優子さんの友達の高橋健二と言います!」
人見知りな健二だがおとおどしながら答えた。
「やあ、よろしくね」
中田は笑顔を振りまきながらそう答えた。
続けて中田は話をしてきた。
「いやあ、ついこの前ニューカレドニアのウベア島に行ってきたから肌も焼けちゃって茶色くなってるんだけど、あそこは最高だったよ。天国に1番近い島って言われてるけど、君は知っているかな?まさしく、あそこは天国みたいな場所だったね。青い空、白い砂浜、緑の木々。そして透き通る青い海!豊かな手つかずの自然に溢れていたよ!景色もさることながら、あの場所独特の雰囲気がたまらなかったね。日本では沖縄とかが有名だけど、海外はレベルが違って綺麗だったね!」
「はあ、そうなんですね」
健二からは何も聞いていないのに、唐突に色々と語り始めた。
「この人は急に何を語り出しているのだろう?自慢したいだけなのかな?」
心の中でそう思っていた健二だったが、そんな彼などお構いなしに中田は続けた。
「僕は5年前まで普通のサラリーマンだったんだよ。その時は時間とお金の両方に余裕が無くてさ。日々生活するためだけに会社へ行ってわずかばかりのお金を稼いで暮らすだけの日々だったんだ。時間に拘束されて、本当に辛い日々だったね。ところが、このビジネスを始めて世界が180°変わったんだよ!好きな時に仕事が出来るから時間の拘束が無くなったし、収入も段違いに上がったしね!何より、初めのうち頑張ればその後は何もしていなくても一定の収入が自動的に入ってくるのは魅力的だよ。この前もテレビでニューカレドニアの特集をしていてその1週間後には行っちゃってるわけだしね。普通のサラリーマンだったら夏休みや冬休みじゃないと行けないけど、僕の時間は自由だからね!しかも、サラリーマンなんかより断然稼げてる訳だし!本当に夢のような仕事だよ!」
そんな彼の話を、周りの人達は笑顔で聞いている。
優子も「流石中田さん。すごーい!」と、彼を慕って聞いているのがよく分かる。
しかし、側から見たら異常な光景だと健二は思った。健二はこの雰囲気に困惑してしていた。
この笑顔で聞いている人達はおそらく前からこのビジネスをしている人達なのであろう。
そんな中、健二と同じように困惑している1人の女性がいた。
「なつき。メンバー」と書かれたネームプレートをした女性だった。おそらく彼女も誰かに連れてこられて今回初めてこのセミナーに来たようだった。