girikenのブログ

40歳の未婚おじさんが描く恋愛小説

40歳独身貴族のアバンチュール ⑦

健二は今まで出会った事のない種類の人だったので些か困惑した。

「なんだろう、この統一感の無い格好をした人は」

それが彼の第一印象であった。


しかし周りの子たちは

「中田さん、おはよう御座います!」

「中田さん!」「中田さん!」

と、次々と声をかけられてゆく。

どうやら人望だけは厚いらしい。


健二も声をかけられてので、

「は、初めまして!優子さんの友達の高橋健二と言います!」

人見知りな健二だがおとおどしながら答えた。


「やあ、よろしくね」

中田は笑顔を振りまきながらそう答えた。

続けて中田は話をしてきた。

「いやあ、ついこの前ニューカレドニアのウベア島に行ってきたから肌も焼けちゃって茶色くなってるんだけど、あそこは最高だったよ。天国に1番近い島って言われてるけど、君は知っているかな?まさしく、あそこは天国みたいな場所だったね。青い空、白い砂浜、緑の木々。そして透き通る青い海!豊かな手つかずの自然に溢れていたよ!景色もさることながら、あの場所独特の雰囲気がたまらなかったね。日本では沖縄とかが有名だけど、海外はレベルが違って綺麗だったね!」


「はあ、そうなんですね」

健二からは何も聞いていないのに、唐突に色々と語り始めた。

「この人は急に何を語り出しているのだろう?自慢したいだけなのかな?」

心の中でそう思っていた健二だったが、そんな彼などお構いなしに中田は続けた。

「僕は5年前まで普通のサラリーマンだったんだよ。その時は時間とお金の両方に余裕が無くてさ。日々生活するためだけに会社へ行ってわずかばかりのお金を稼いで暮らすだけの日々だったんだ。時間に拘束されて、本当に辛い日々だったね。ところが、このビジネスを始めて世界が180°変わったんだよ!好きな時に仕事が出来るから時間の拘束が無くなったし、収入も段違いに上がったしね!何より、初めのうち頑張ればその後は何もしていなくても一定の収入が自動的に入ってくるのは魅力的だよ。この前もテレビでニューカレドニアの特集をしていてその1週間後には行っちゃってるわけだしね。普通のサラリーマンだったら夏休みや冬休みじゃないと行けないけど、僕の時間は自由だからね!しかも、サラリーマンなんかより断然稼げてる訳だし!本当に夢のような仕事だよ!」


そんな彼の話を、周りの人達は笑顔で聞いている。

優子も「流石中田さん。すごーい!」と、彼を慕って聞いているのがよく分かる。

しかし、側から見たら異常な光景だと健二は思った。健二はこの雰囲気に困惑してしていた。

この笑顔で聞いている人達はおそらく前からこのビジネスをしている人達なのであろう。


そんな中、健二と同じように困惑している1人の女性がいた。

「なつき。メンバー」と書かれたネームプレートをした女性だった。おそらく彼女も誰かに連れてこられて今回初めてこのセミナーに来たようだった。

40歳独身貴族のアバンチュール ⑥

土曜になり、セミナー会場に優子と共に健二は訪れた。そこは異様な雰囲気をまとった場所であった。


ぱっと見で人は50人程いて、各々が胸にネームプレートをしていた。そこには名前と共に「メンバー」「ディレクター」などの役職名と思われるものが記載されていた。

健二にもネームプレートが渡され、そこには「高橋健二(メンバー)」と記載されていた。気付かぬうちに彼はメンバーになっていた。


「これからみんなを紹介するね!」

そう言って、優子は5人程集まっている場所へ健二を連れて行った。


「あっ、優子!」

「優子さん、こんにちは!」

「この前優子さんに紹介してもらった青木さん、今すごいビジネス頑張ってるよ!」

どうやら、彼女はその集まりの中で人望が厚いらしい。

「僕とは大違いだな」

人からの人望が皆無の健二はその瞬間卑屈にそう思ってしまった。


「彼の名前は健二君。今回私達のビジネスに興味があって来たの!私達みたいに好きな時に仕事をして、好きな時に好きな事を楽しめるようになりたいんだって!」

優子はそのように紹介してくれた。

「あれ?そこまで俺言ったっけな?」と思う間もなく、周りの優子の友達は笑顔で語りかけてきた。


「このビジネスに出会って私の生活は大きく変わった!」

「本当にここにいるみんなと知り合えて良かった!」

みんな不思議なくらいに口を揃えて同じことを言ってくる。


そんな中、一際凄まじいオーラを放っている人物がこちらへ向かってくる。

『ダイヤモンドアンバサダー』と役職が書かれた中田さんである。

見た目的には50歳くらいだろうか?肌は冬にも関わらず程よく茶色く、身長は170センチくらいで髪は全体的には短髪で横を刈り上げており、髪色は茶色く少し前のEXILEを意識しているような男性だった。ただし格好だが、グッチの柄が一面に入ったジャケットを羽織り、手にはルイヴィトンのクラッチバッグ、クロムハーツのロゴが入っている眼鏡、ドルチェ&ガッバーナのロゴが入った靴など、下品なほどに全身をハイブランドで固めていることが一目で分かるようなファッションをしていた。


「やあ、初めまして」

中田は強烈な香水の匂いと共に健二に語りかけてきた。

40歳独身貴族のアバンチュール ⑤

待ち合わせまで後1時間。

彼はソワソワしながらも、一抹の不安に駆られていた。

というのも、今の携帯は写真の補正機能が高性能である。

こんなにトントン拍子に事が運ぶ事を考慮すると、写真と全然別人が来るのではないかと考えてしまったのである。

「まあ、そんなに期待しすぎてもいい事ないしな。気軽に待とう」

そう考えていた中、彼女は現れた。


「健二君だよね?」

声をかけられた健二は我が目を疑った。

写真で見て想像していた彼女は身長が高く大人の女性っぽいイメージだったが目の前に現れた彼女は身長が低くどちらかというと可愛らしいイメージで、健二のドストライクだった。


立ち話もなんだからと、早速2人は近くのスターバックスに入る。

普段なかなかカフェなどに行かない彼は何を頼んで良いか分からずとりあえずスタンダードなアイスコーヒーを注文しようとしたが、スターバックスにはアイスコーヒーという名称のものが無い。

どうしようと慌てる彼を優子はニコッと笑いながら

「アイスコーヒーはいくつか種類があるけど、普通のアイスコーヒーを頼みたいならアイスのドリップコーヒーで注文すればいいよ」

とさりげなく教えてくれた。

そんな彼女のさりげない優しさにも健二はときめいてしまった。


注文を終え着席し、改めてお互いの事を話す。

趣味の話、家族の話、仕事の話。

メッセージでやり取りしてはいたが、直接会って話すといくらでも話が出来てしまい、とても心地良い時間を過ごす事が出来た。


1時間程が経過して仲良くなっていくとだんだんと会話の内容も「仕事」の表面的な話から、少し踏み込んだ給料などの話にもなっていった。

それまでは聞き役だった彼女だが、ここから彼女の質問が始まった。


「今のままの給料じゃ将来が不安じゃない?」

「年金に期待できる?」

「私は本業の仕事をしながら副業もやっていて、そのお陰で色々な国に旅行に行ったり楽しい毎日を過ごせてるの」

「今から将来に向けて新しい収入源を作ってみない?」


彼女の話はこうだ。

会社員のおおよそが収入は手取りで15~30万で休日は月5~10日くらいである。

その限られた収入と時間の中で、「買える服」を買い、「行けるところ」で遊び、プライベートを充実させるしかない。

ただ、その限られた枠を広げることによって、「買える服」から「買いたい服」を買えるようになり、「行きたいところ」に自由に行けることが可能になる。

その枠を広げるために、若いうちに時間を投資し、収入と自由を得られるような仕組みを作ってみないか?という


聞いてみると彼女の言う副業は自分の好きな時間に好きなように取り組め、そして安定した収益を得られるらしい。

将来への不安は少なからずあった健二はその話に当然興味を持った。

不安を煽りつつも、新しいビジネスを匂わせて、自分もどんなものか知りたかったので、「どんなことをやっているの?」と聞かずにはいられなかった。


すると彼女は

「ちょうど今度そのビジネスに関するセミナーがあるんだけど急遽枠が空いちゃったから、よかったら特別に健二君も招待出来る様にお願いしてみるよ!」


この「特別に」という言葉の素敵な響きに彼の高揚感は上がってしまった。

二つ返事で参加したい旨を伝達し、翌週の土曜に彼は優子と共にそのセミナーへ行く事になった。