girikenのブログ

40歳の未婚おじさんが描く恋愛小説

40歳独身貴族のアバンチュール④

「こんにちは、初めまして」

こんな当たり前の挨拶でさえテンションが上がってしまう。

40歳のおじさんではあるが、学生時代振りのトキメキを日々の生活に健二は感じていた。


「え!私もディズニー好きなんですよ!」

「音楽も好きだけど、フェスとか行ったことないの。けどすごい行ってみたい!今度、行けたら一緒に行きませんか?」

「私もなにか嫌になった事があったら一人で海に行っちゃったりします笑」

今まで女性とLINE等のやり取りをしていても、こんなに共通の話題で盛り上がる事は人生で無かった。

しかし何度かメッセージを重ねるうちに、

「今度会えないかな?健二さんに会ってみたい」

と、向こうから来た。

「時間が会えば是非」

クールな感じで返答するも、健二の内心はその場でツイストを踊ってしまいたくなりそうなくらい舞い上がっていた。

携帯の画面に映し出されるメッセージを見てはニヤニヤする40歳の男、それが健二である。


「今度の土曜とかお休みかな?」

「土曜なら丁度予定空いてますよ?」

なるべく大人な対応をするようにクールに返答する健二。しかし、実際は心臓がバクバクしている状態である。


「本当に!だったら今度の土曜日にご飯行きましょう!」

「じゃあ、土曜日時間空けておきますね」

トントン拍子に話が進み、自身の中では令和史上最高の好感触であった。


そして土曜日当日。

待ち合わせ時間の1時間前に健二は待ち合わせ場所にいた。

前日あまりの楽しみにテンションが上がりきって寝れなかった為、早めに来てしまったらしい。

40歳独身貴族のアバンチュール③

早速有料会員になった健二。
「初めていいねを女性からされた。一体どんな子なんだろう」
高鳴る胸の鼓動を押さえ早速画面を開いてみたが、彼は愕然とした。
画面を開いて現れたのは推定体重3桁は優に超えている黒人の女性が2名。
彼は身長の低い小柄な女性がタイプであっただけに、衝撃は計り知れないものであった。


おとり広告やつり広告に騙されるはずはないと常日頃から思っている彼だったが、
今回彼はまんまと釣られてしまったのである。
「やられた。20日分の食料が」
その単語が頭を横切ったが、同時に彼は関心した。
確かに無料会員でも楽しめるサービスであればそのまま課金しないのが一番得策だが、
今回のケースのように相手方から「いいね」が来ていたとしても無料会員の場合見れなかったら嫌でも有料会員登録をその場でしてしまうだろう。
勉強になったと感じると共に、頭を切り替えた。
せっかくの有料会員登録。
課金をしてしまったので全力で楽しもうと思ったのである。
その後目に映り良いと思った女性に片っ端から「いいね」を送ってみた。
しかしながら、初回すぐに2名の女性から「いいね」が来たことが嘘のようにその後女性からの反応はうんともすんとも言わないのであった。
どんなにこちらが「いいね」をしても、全くアプリからの新着通知が無いまま1週間が経過した。
「ああ、昔より出会いやすくなったといっても所詮こんなもんか」
彼の悪い癖である卑屈な感情が表に出始めようとしていた。


そんな今まで全く動きの無く不穏な空気が漂う中、1通の通知が来た。
なんと、以前「いいね」をした女性から「いいね」が届き、初めてマッチングしたのである!
この女性の事は良く覚えていた。
都内在住の優子さん31歳。
健二が学生時代にドはまりしていたAKBの大島優子と同じ名前だったので印象が強かった。
また彼女のプロフィール写真だがモン・サン=ミシェルやグレート・バリア・リーフ、サグラダ・ファミリアなど色々な場所への旅行へ行っている写真が多々掲載されていた。
彼女が写っているどの写真も笑顔がとても輝いていて、可愛いなと思っていたので良く覚えていた。
そんな彼女から「いいね」の返信が来たのである。
健二のテンションがこれでもかと上がったのは言うまでもなかった。

40歳独身貴族のアバンチュール➁

焦ってはいるものの、出会いを探そうと思えば携帯一つで出会いを見つけられるのが今の世の中だ。
今の世の中は本当に便利になったものである。
健二はいわゆるガラケー世代であり、携帯電話の使用用途と言えば知り合いと直接電話で話をするかe-mailでメールでのやり取り。
これくらいであった。


しかし現在はスマートフォンの普及によりSNSを通じて全く知らない人とでも簡単に知り合って連絡を取れる世の中になったのである。
マッチングアプリなどは現代社会の代表的な出会いツールの一つとなっており、共通の趣味を介してお互いの事を気に入ったら「いいね」をして、そこでマッチしたら連絡を取り合えるという優れものである。
しかも20代で4割以上の人が利用経験があり、浸透率もかなりのものである。
「出会い系」だと壁を感じてしまうが、「マッチングアプリ」だと気にせず登録する女性も少なからずいるのではないだろうか。


健二自体も存在は知っていたが、いかんせん彼は昭和生まれの人間であった。
スタービーチで止まっていた彼の脳みそは未知の新しいものになかなか手を出せずにいた。
しかし新しい年を迎えるに当たり
「今年こそは良い人を見つけて結婚しよう!」
と野望に燃える彼は年明け早々にマッチングアプリ「Tinder」を登録した。
他のアプリは原則有料会員登録が必須の中でTinderは無料会員として楽しむことも出来るので、金欠の健二には何かと都合が良かった。


アプリのインストールが終わり、まずはプロフィール登録。
写真を登録しようとしたが、健二は現在40歳。
顔にはほうれい線が目立ち、肌のつやも激減した。
色々な角度から自撮りをしてみるものの、予想通りどの写真もただのおじさんである。
「さて、どうしたものか」


しかしそこは健二君。
「誤魔化す事」が常習化している彼は15年前のイケてる時代の写真を取り出し、
その写真をプロフィール写真に設定した。
「昔の写真ではあるが本人に違いはないので全く問題は無いだろう」
それが彼の言い分だった。


趣味の欄も
・音楽が好きで、音楽フェスに毎年行っている
・ディズニーが家から近いので、月1でディズニーに行っている
・海が好きで、砂浜で一人波の音を聞くのが好き
と女子ウケしそうな内容を記載。
音楽フェスに1度も行った事が無く、ディズニーへ以前行ったのは10年前、波の音は波辺ではなく自宅のパソコンでYOUTUBEの波の音動画を再生して聞くだけのインドア志向の彼だがとにかく出会いが欲しい彼は好き放題記載し初日が終了した。


そして翌日。
緊張した面持ちで再度アプリを開いてみると、なんと女性から「いいね」が来ているではないか!しかも1人ではなく2人からも!
その場で踊りだしてしまいそうなくらいテンションが上がる健二だが、ここで問題が発生する。
「いいね」をしてくれた女性が表示されない。
何故だ!というもどかしい気持ちになったが、すぐに原因は解明された。
どうやら無料登録の場合、向こうからきた「いいね」は見れないらしい。
見るにはこちらが先に「いいね」をしている場合か、有料会員になった場合のみである。


健二は大いに迷った。
有料会員は月額4,000円。
日清のカップヌードルが20個買える。
つまり20日分の夕食代に相当し、これは彼にとって死活問題である。
しかしせっかく女性サイドから「いいね」が来ていて、これを逃す手はない。
そんな苦渋の選択を余儀なくされた健二だが、彼は明るい未来の為に有料会員になる事を決意するのであった。