焦ってはいるものの、出会いを探そうと思えば携帯一つで出会いを見つけられるのが今の世の中だ。
今の世の中は本当に便利になったものである。
健二はいわゆるガラケー世代であり、携帯電話の使用用途と言えば知り合いと直接電話で話をするかe-mailでメールでのやり取り。
これくらいであった。
しかし現在はスマートフォンの普及によりSNSを通じて全く知らない人とでも簡単に知り合って連絡を取れる世の中になったのである。
マッチングアプリなどは現代社会の代表的な出会いツールの一つとなっており、共通の趣味を介してお互いの事を気に入ったら「いいね」をして、そこでマッチしたら連絡を取り合えるという優れものである。
しかも20代で4割以上の人が利用経験があり、浸透率もかなりのものである。
「出会い系」だと壁を感じてしまうが、「マッチングアプリ」だと気にせず登録する女性も少なからずいるのではないだろうか。
健二自体も存在は知っていたが、いかんせん彼は昭和生まれの人間であった。
スタービーチで止まっていた彼の脳みそは未知の新しいものになかなか手を出せずにいた。
しかし新しい年を迎えるに当たり
「今年こそは良い人を見つけて結婚しよう!」
と野望に燃える彼は年明け早々にマッチングアプリ「Tinder」を登録した。
他のアプリは原則有料会員登録が必須の中でTinderは無料会員として楽しむことも出来るので、金欠の健二には何かと都合が良かった。
アプリのインストールが終わり、まずはプロフィール登録。
写真を登録しようとしたが、健二は現在40歳。
顔にはほうれい線が目立ち、肌のつやも激減した。
色々な角度から自撮りをしてみるものの、予想通りどの写真もただのおじさんである。
「さて、どうしたものか」
しかしそこは健二君。
「誤魔化す事」が常習化している彼は15年前のイケてる時代の写真を取り出し、
その写真をプロフィール写真に設定した。
「昔の写真ではあるが本人に違いはないので全く問題は無いだろう」
それが彼の言い分だった。
趣味の欄も
・音楽が好きで、音楽フェスに毎年行っている
・ディズニーが家から近いので、月1でディズニーに行っている
・海が好きで、砂浜で一人波の音を聞くのが好き
と女子ウケしそうな内容を記載。
音楽フェスに1度も行った事が無く、ディズニーへ以前行ったのは10年前、波の音は波辺ではなく自宅のパソコンでYOUTUBEの波の音動画を再生して聞くだけのインドア志向の彼だがとにかく出会いが欲しい彼は好き放題記載し初日が終了した。
そして翌日。
緊張した面持ちで再度アプリを開いてみると、なんと女性から「いいね」が来ているではないか!しかも1人ではなく2人からも!
その場で踊りだしてしまいそうなくらいテンションが上がる健二だが、ここで問題が発生する。
「いいね」をしてくれた女性が表示されない。
何故だ!というもどかしい気持ちになったが、すぐに原因は解明された。
どうやら無料登録の場合、向こうからきた「いいね」は見れないらしい。
見るにはこちらが先に「いいね」をしている場合か、有料会員になった場合のみである。
健二は大いに迷った。
有料会員は月額4,000円。
日清のカップヌードルが20個買える。
つまり20日分の夕食代に相当し、これは彼にとって死活問題である。
しかしせっかく女性サイドから「いいね」が来ていて、これを逃す手はない。
そんな苦渋の選択を余儀なくされた健二だが、彼は明るい未来の為に有料会員になる事を決意するのであった。