girikenのブログ

40歳の未婚おじさんが描く恋愛小説

40歳独身貴族のアバンチュール22(1223)

流石は表参道。
通りゆく人々は皆洒落ており、美人な人も多い。
しかしそんな中でもあやは全然見劣りしていない。
むしろ、すれ違う人々の中には振り返る人もいるくらい一段とオーラが出ている。
一緒にいる男はなんなんだろう?
そんな感じで健二も見られているような感覚に陥るくらい、あやのそれは凄かった。


急にそわそわしだす健二。
それを察するあや。


「けんじにい、どうしたの?」


「いやっ、あやはなんかこの街に馴染んでるなぁと思って。
それに比べて、俺ってなんか普通すぎる格好で来ちゃって、急に恥ずかしくなったんだよね」


「なんだ、そんな事か!
急にそわそわしだしたから体調でも悪くなったのかと心配しちゃったよ!
まあね、私は仕事の兼ね合いでもよくこの辺来るから多少は馴染んでるかもしれないけど、そんなの関係なくない?
誰も知ってる人が見ているわけでもないし!」


微笑みながらあやは言った。
それと同時にあやは健二の腕に自分の腕を絡めた。


「おい、ちょ!」


健二が驚いてつい声が出てしまったが、


「この前は地元だったし誰かが見てたかもしれないけど、
今はさっき言ったように知ってる人が見ているわけでもないから大丈夫だよね!」


笑顔で言ってきた。
絡めてきた腕にあやの胸が当たる。
幼少期の健二が知っている感じと全然違う。

40歳独身貴族のアバンチュール21(1222)

実家から自分の家に戻った後に、ふとあやの事を考えている自分がいた。

懐かしい無邪気さは残しつつ、素敵な大人の女になっていたあや。

ただ、やはり健二の中ではあやは妹みたいな存在だった。


「元気そうで良かったな」


そう思うだけで、それ以上は特には何も考えようとしなかった。

そんな中、あやからLINEが届いた。


「今日は久し振りに会えて本当に嬉しかった!

今度一緒に買い物行けるの凄い嬉しい!

初めてのデートだね笑」


健二はニヤっとしながら来たLINEを呼んだが、自分にとっては妹みたいな存在の子からデートと言われても特に何も感じず、


「こちらこそ嬉しかったよ。

デートとか馬鹿な事言ってないで、早く寝ろ笑」


と素気なく返答した。


買い物当日。

買い物に行きたいと言っていたあやだが、洋服を買いに表参道へ行きたいと言っていたので、2人で表参道へ行く事にした。

家がそれぞれ離れていたので表参道の駅で待ち合わせをする事に。

会うのは所詮幼馴染で妹みたいに思っていた女の子だったので、健二は特に気合を入れた服装などせずにいつも通りの格好で来た。


健二は遅刻が嫌いであった。

その為、待ち合わせ時間の30分前にはスタンバイしていた。

30分前なのでまあゆっくり携帯小説でも読みながら待っていようと思った矢先、突然肩を叩かれた。

あやだった。


「けんじにい、見っけ!」


これには驚いた。

「いやいや、あや来るの早すぎじゃない?」

と咄嗟に本音が漏れたが、それを受けて


「やっぱり早く来てたね。昔から約束の時間より早く来たりしてたから私も早めに来たら、やっぱりいた!」

と答えるあや。

全てお見通しか。

流石20年以上前からの知り合いだなと、ついつい感心してしまった。

40歳独身貴族のアバンチュール20(1221)

「照れなくてもいいじゃん」

あやは笑いながら言ってきたが、さっきまでの感じと若干違う。

さっきまではただ明るく喋っているだけだが、今回の「照れなくてもいいじゃん」はなにか寂しげに言っているような感じだった。


あぁ、思い通りにいかなくて拗ねてるんだな


健二はそう思ったが、

「はいはい、行くぞ行くぞ」

とだけ言ってそのままスルーした。


暫くの間、無言で歩いていく2人。

そうこうしている中、近くの草むらを通過する。

元々はこの草むらは一戸建てが建つ予定の区画だったがその予定が頓挫して、その地区では珍しく草花が公園とは違い自然本来の風味で残っていた。


「あ、ここ!昔、けんじにいに初めてバッタの捕まえ方を教えてもらったよね!」


それまで無言だった2人だが、あやが突然話しかけてきた。


「そうだったっけ?覚えてないよ」


と健二は言ったが、すかさずあやは答えた。


「絶対そう。こっちに引っ越してきてこの地域に馴染まなくてあまり家から出なかった私を見てけんじにぃが連れ出してくれて、遊んだのがここだもん。

ずっと寂しかったから逆にめちゃめちゃ嬉しかったからよく覚えてる!」

満面の笑みが彼女は言った。


本当にちょっとした内容の事だ。

意識しなければ覚えていないような些細な内容で、現に健二は全く覚えていない事だった。

しかし、そんな事をあやはしっかりと覚えている。

そんなに当時嬉しかったのかと思ったら、健二はその事を少し微笑ましく思った。


近くのスーパーへ行き、食材を購入して自宅へ戻る。

特にこれというリクエストが無かったので、夕飯は鍋を作る事にした。

双方の家族が一つの食卓を囲んで鍋をつつく。

昔はよく家族間の行き来があったのでこのようなやり取りがあったが、数十年ぶりにそれがおこなわれ、とても懐かしい気持ちと共に温かい気持ちになったのを健二は感じた。


食事も終わり帰ろうとした際、

「けんじにぃ、今度お休みの日に買い物行きたいんだけど付き合ってくれない?」

とあやから言われた。

特に休みの日に予定などは無かったのでいいよとこれを承諾すると、その場で連絡先を交換した。

「ありがとう!嬉しい」

と言ったあやの笑った顔は幼かった頃のそれと変わりが無かった。


「ああ、やっぱりあやはあやだな」


健二はそれがなにか嬉しかった。