girikenのブログ

40歳の未婚おじさんが描く恋愛小説

40歳独身貴族のアバンチュール25(0105)

山道を歩くと、木々と共に虫も飛んでいる。
一般の女の子は虫を見て大騒ぎする子もいるだろう。
しかし、あやは物怖じしない。
さすが田舎育ちだけある。
それどころか、道端の草むらにいたバッタを素手で捕まえた。


「見て!久し振りにバッタを捕まえた!」


そう言って、手掴みしているバッタを健二の顔に近づけた。


「分かったからやめるよ」


昔はなんとも思っていなかった虫という存在。
しかし、40歳になると若干苦手な感覚になるのだな。
ひとつ、また勉強になった。


しかし、昔はこんな他愛もないやり取りを夕方近くまでずっと続けていたものだ、
当時を思い出しながらはしゃいでいたが流石に昔のようにはいかないらしい。
すぐに疲れが顔を出してきた。


「あそこで休憩しようか」


目線の先には山小屋があり、そこで小休止する事にした。


子供の頃との違い。
休憩の際に二人はビールを一本づつ飲むことにした。
しかし、何故休日の昼間に飲むビールはこんなに美味いのだろうか。
二人は同時に飲み干し、


「く~~~~」


と声を出した。
全く同じタイミングでびっくりし、顔を見合わせた。
と同時に、自然と笑いがこみあげてしまったのである。

40歳独身貴族のアバンチュール24(1229)

高尾山へ行く当日。
健二はあやの住むマンションまで迎えに行った。
場所は港区にあるエントランスが小綺麗なマンションだった。
あぁ、いわゆる港区女子ってやつか。
健二はそう思いながら彼女の事を待った。


建物の前で待って程なくして、あやは降りてきた。
その格好はスニーカーにウィンドブレーカー、動きやすそうなズボンを履き、リュックを背負い頭にはゴアテックスの帽子を羽織っていた。
以前会った時の都会な感じの服装ではなく、休日山に行きますよという事を体現している服装であった。
しかし、健二にはこの格好の方がピンときた。健二があやに持つイメージはわんぱくな女の子のイメージだったので、都会ぶっている格好よりこの格好の方があやらしいと思った。
そう思うと健二も肩の力が抜けた気がした。
「そっちの方があやっぽいじゃん」
健二は笑いながら彼女に言った。


車を走らせる事1時間。
目的地の高尾山のふもとに着いた。
同じ東京ではあるが、緑の多さが段違いである。
そして空気の美味しさも段違いだ。
元々田舎出身の2人は自然が大好きなのだ。
車を降りた瞬間、2人のテンションは嫌でも高まった。


高尾山は山の中腹まで行けるケーブルカーもある。
気軽に山登りを楽しみたい人はこれを利用するのだが、二人は歩いていくことにした。
木々の緑。
色とりどりの花々。
虫の鳴き声。
二人が生まれ育ったそれよりも雄大である。
必然的に昔話に花を咲かせ、二人は着実に歩を進めていった。
しかし、本当に山登りは気持ちのいいものである。
天候も文句のつけようのないくらいの晴天。
マイナスイオンを全身に受け、気持ちまで晴れ晴れとするようだ。


「なんか、昔一緒に虫を捕りに行った事とか思い出すよね!」


あやが言った。
本当にその通りで、昔の思い出がフラッシュバックする。
今年40歳だが、10代の頃に戻ったような感覚を覚えた。

40歳独身貴族のアバンチュール23(1228)

ドキドキと緊張していたのも束の間。

ようやく普段通りの落ち着きを取り戻した。

それにしても、いつの間にこんなに女性らしい柔らかさを手に入れたんだろう。

こんな事も考える余裕が出て来た。


あやが行きたいと行っていたお店を順番に回る。

「お似合いですよ」

どのお店に行っても店員は試着したあやに対して言ってきた。

それはそうだ。

自分から見ても、どの服も似合わないはずがないのだ。

モデルではないのか?

そう勘違いする程、どの服もあやに似合ってしまっていたのだ。


そんな中。

とある店であやが試着している時に、店員が健二に話しかけてきた。

どうやら、このお店はあやがよく来るショップらしい。

「よくあやさんいらっしゃっるけど、いつもクールビューティーって感じで笑ったりしないんですよ。こんなに楽しそうにしているあやさん、初めて見たかもしれないです」


そうなのか。

自分が知っているあやはいつもこんな感じだ。

しかしながら、服装の系統を見るとクールビューティーという言葉のあやも想像がつく。

健二は面白くなってしまった。

しかし、いつもと違う自分といる事でいつもと違うあやがそこにいる。

そう聞き、健二は悪い気はしなかった。


いくつかのショップをまわり、買い物が一通り終わった。

行ったお店はどこも表参道の小綺麗なショップである。

普段そういったお店に全く行かない健二の顔にはいつも以上の疲れが見て取れた。


そんな健二を見てあやは、

「けんじにぃ、今日は本当に付き合ってくれてありがとう。

今度お礼にけんじにぃの好きなとこに一緒に行きたいんだけど、今度の土日に高尾山に一緒に行かない?」

と言ってきた。


よく覚えているな。

確かに高尾山は健二の好きなスポットであった。

しかし、その話をしたのはもう数十年前の話である。

すごいなと感心すると同時に即座に了承した。

こうして、次の土日に一緒に高尾山に行く事になったのである。