girikenのブログ

40歳の未婚おじさんが描く恋愛小説

40歳独身貴族のアバンチュール28(0118)

あやと一緒に高尾山へ行って数日後。

健二はふとしれぬ違和感を感じた。


(なんだろう)


違和感の正体がいまいち分からない。

ただ、健二が今ハッキリと思っている事。


(あやに会いたい)


よほど、この前会った時の感覚が昔の感覚と近くて良かったのか。

よほど、居心地が良かったのか。

本人にもなにが良かったのかは分からない。

しかし、異常に会いたいと思ってしまっているのだ。


気付いたら、健二はあやにLINEを送ろうとしていた。

しかし、以前なら簡単に送れたであろう

「今度飯行かない?」

がなかなか送れない。


(なにか、文章おかしくないかな)


(もっと違う誘い方ってないのか)


昔の感覚なら気軽に誘えたのに、何故か誘う事に躊躇してしまっている。

何故かLINEひとつ送るだけなのに緊張をしてしまっている。


携帯を握りしめて早一時間。

悩んでても仕方ないので、シンプルに


「お疲れさん。

この前の高尾山楽しかったね。

今度、仕事終わりにご飯でも行かない?」


とだけ送った。

送った後、ソワソワするかと思いきやものの数秒で返信が来た。


「行きたい!行こう行こう」


その一文を読み、健二は自分では気付かないくらいニヤニヤとしていたのである。

40歳独身貴族のアバンチュール27(0112)

健二は一瞬理解が出来なかった。
そして耳を疑った。
しかし、あまりこの言葉を重く受け取らなかった。
何故か?
昔から付き合いが長いあやからの発言だったからだ。


(ああ、せっかくの休日だしもうちょっと遊びたいって思って
 駄々をこねているんだな)


としか思わなかった。
付き合いが長いが故の思い込みである。


「馬鹿な事言ってるなよ。
 明日も仕事があるだろ?
 今日は一日中歩いてて疲れているだろうし、明日に備えてゆっくり休みな。
 じゃあね、おやすみ」


そう言ってあやを家に送り届け、健二は帰路についた。


家に到着するのと同じくらいのタイミングで、あやからLINEが届いた。


「今日はありがとう。
 久し振りに自然を感じられてすっきりしたよ。
 あと、けんじにぃと一緒に入れてすごい居心地良かったよ。
 もうちょっと一緒にいたかったな笑」


語尾に「笑」と記載があったが、健二も同様の感想を抱いていた。
居心地の良さ。
まあ、20年以上前からの気心が知れたもの同士の知り合いなので当然かもしれない。
とは言う物の、ここまで自然体で一日を過ごしたのは久し振りであった。
健二は得も言えぬ心地よさに身を包まれていた。

40歳独身貴族のアバンチュール26(0111)

高尾山は標高599メートルの山なので、山頂まで2時間もあれば到着する。
程無くして山頂に到着すると、数軒お茶屋さんがあったのでそこでご飯を食べる事にした。
二人は数あるメニューの中から注文したのは名物のとろろそばであった。
数分待った後、とろろそばが運ばれてきた。


何故こういった場所にあるご飯屋さんは町中の同じ商品よりおいしく見えるのだろうか。
二人はここでもビールを飲みながら蕎麦を食した。


(幸せだ)


心の中でそう思っていた。
あやの方をちらりと見ると、彼女も笑顔で蕎麦を食べながらビールを飲んでいた。
コロナで外出自粛を余儀なくされ窮屈な生活をしていた反動もあり、
久し振りに自然に触れていつも以上にリフレッシュ出来ている。
また、一緒にいるのが気心の知れたあやである事も大きい。
全く気を使わないのでのびのびと出来ている。


しばらく山頂でまったりとする二人。
なんの話をしたかは覚えていない。
それくらい、自然と話をしていたのだ。
内容は覚えていないが、楽しかった事だけは分かる。
自然体でいるという事はこういう事なのだろう。


その後下山して、あやを家まで送る為に車を走らせる。
楽しそうにしていたあやだが、
彼女の家が近づくにつれて表情が曇ってきたように感じた。
普通の人であれば気付かないような些細な違いなのだろう。
しかし昔からあやの事を知っている健二にはそれを感じ取れた。


「どうした?なんかあった?」


あやに問いかける健二。
しかしあやは通常通りを装っていたのか、


「別になんともないよ。どうして?」


と聞いてきた。


「いや、気のせいだったらいいなだけど、あやの表情がなんか曇った気がしたからさ」


そう言うと、あやが「えっ?」と驚いた表情を見せた。


「そんなに顔に出てた?」


「いや、多分普通の人だとなんとも思わないよ。
 ただ、付き合いが長いから気になっちゃっただけなんだよね」


「マジかあ」


あやが笑いながら言った。


「マジかあ、けんじにぃにはかなわないなあ」


そう言いながら、若干困った表情を見せた。


「どうしたよ?なんかあった?」


もう一度聞いてみた。
あやは困った表情のまま、もじもじとしだした。


そして一言。


「なんかね。このまま帰るの寂しいなって思っちゃったんだよね」


あやはポツリと言った。