girikenのブログ

40歳の未婚おじさんが描く恋愛小説

【東京上京物語③】20230301

春の風が心地良い。

まるで、街全体が自分の事を受け入れてくれているような感覚になる。

あぁ、自分はこれからこの街で大学の4年間を過ごす事になるんだな。

親元を離れる寂しさもあったが、それよりこれからの日々に対する期待の方がはるかに大きかった。


散歩を終え、力也は帰宅した。

そうすると、自宅マンション前に引っ越しのトラックが止まっていた。


「流石3月。引っ越しする人が多いんだな」


そう思いながらマンションに入っていった。


引っ越しの業者が忙しそうにトラックから荷物を運び出している。

どうやら、退去ではなく入居らしい。

引っ越し業者のアルバイトと思われる男の子達の波に乗りながら、力也も自分の部屋へと進んでいった。


するとどうだろうか。

引っ越しをしていたのは、自分の部屋の隣だったのだ。


「お隣さんも今日の入居なんだ」


そう思った矢先、一つの不安点が出てきた。


「あれ、こういう時って引っ越しの挨拶をした方が良いのだろうか。でも、今手元になにも無いし、、、」


初めての一人暮らしだから、そういった勝手が分からない。

しかし、これから4年間お世話になる部屋の横に入居してきてるのでここはちゃんと挨拶をしなくてはと思い、帰ってきたばかりではあったがまた再度手土産を買いに外出したのであった。

【東京上京物語②】20230223

新千歳空港から羽田空港まで約2時間。

初めて飛行機に乗ったのだが、こんなに早く着くのかと驚きであった。

普段は電車での移動がメインだったが、北海道内の遠方に行くために乗っている時間と同等の時間で東京に着いてしまうのは不思議な感覚だ。

なにか特別な事をしているみたいで、18歳の力也少年は1人でニヤッとした。


飛行機を降りて電車で1時間ほど。

江戸川区の平井駅で降りた。

ここは、度々深夜番組的の「月曜から夜更かし」でも取り上げられる場所である。

その平井駅を降りて20分程歩いたところにある築30年の家賃43,000円のワンルーム。

ここが彼の新しい東京での城である。


お世辞にも綺麗な物件とは言えない。

良質な物件とも言えない。

しかし力也にはそんな事は関係なかった。

ここは人生において初めて1人で生活する彼だけの空間なのだ。

ボロボロの物件ではあるが、彼はここの一国一城の主で、気持ちの中ではお城と同等の神々しさがあるのだ。


一旦荷物を置いて一呼吸。


「ちょっと、周辺を歩いてみるか」


近くを散策する事にした。


普段の同じ時期だと間違いなく長袖なのだが、東京のこの気候だと半袖で全然行けそうだ。

半袖のTシャツにデニム、スニーカーというラフな格好で早速外に出てみた。

【東京上京物語①】20230222

心地よい風が吹いている。


北海道の冬は本当に冷え込みが激しく、当然しっかりと防寒具を着込んでいる。

4月になっても北海道の気温は10℃くらいなので、皆長袖を当然のように着用していた。

しかし、力也は違った。

今まで生まれてから18年間北海道に住んでいた彼だが、今年晴れて東京の大学に合格し、単身東京都の江戸川区に引っ越してきた。

ここで、彼の新しい生活が始まるのだ。

気温がそもそも北海道より関東の方が暖かい事もあるが、それ以上にこれから始まる新生活への期待の大きさから、今吹いている何気ない風ですら心地良く感じさせていたのだ。


時は若干遡り、ここは千歳空港。

「力也、一人で本当に大丈夫かい?」

旅立つ直前の力也に母が心配そうに問いかけた。

母親の立場からしたら、初めて親元を離れて暮らすわけだ。

心配なのは当然である。


「大丈夫だよ。せっかく東京の大学に行かせてもらえるんだから、向こうでもしっかりと勉強して成長してくるよ!

なにかあったら電話とかも出来るんだし、心配しないでよ!」

心配をかけまいと笑顔で答える力也だったが、

「でも、、、」

とやはり母は心配そうだった。


すかさず、力也の父親が

「もう力也も18歳なんだし、立派な成人だ!

男は、色々な経験をして大きくなっていくからお前もしっかりと色々経験して大きくなれ!

母さんと父さんの心配はしなくていいから、しっかりやってこい!母さんもそんなに心配そうにしてると、力也の門出にケチがつくぞ!」

と力強く言ってくれた。


力也は不覚にも目頭に熱いものを感じた。

しかしそれを表に見せずに、

「大丈夫!行ってくるよ」と言って空港のゲートをくぐって行った。

彼が18歳の春の物語である。